ドリー・パートンが2026年8月25日に死去してから約1カ月後、遺産と事業の管理を巡る対立が訴訟に発展した。パートンのマネジャーだったダニー・ノゼル(Danny Nozell)とShe's Alive LLCは、20年以上にわたってパートンの警備責任者を務めた甥のブライアン・シーバー(Bryan Seaver)を提訴。シーバーが金銭の支払いを求め、パートンの事業に損害を与えると脅したと主張している。シーバーは解雇されたことは認めているが、脅迫は否定し、メッセージが文脈から切り離されていると反論している。
争点は家族間の関係にとどまらない。パートンの資産規模は約4億5000万ドルと見積もられ、テーマパーク、リゾートホテル、音楽著作権、消費者向け商品のライセンス、慈善事業などに及ぶ。死去後、誰が遺産を代表して事業上の判断を下すのか、氏名や肖像をどのように使い続けるのか、既存事業の警備と運営を誰が担うのかが、実務上の課題として浮上している。
一時的な接触制限を巡る主張
ノゼルとShe's Alive LLCは9月22日に提訴し、一時的な接触制限命令を申し立てた。裁判官は9月23日にこれを認めた。訴状によると、シーバーは自らを「国際的な武器商人で傭兵」と表現し、「エンターテインメント業界の人間ではなく、殺し屋だ」と話したとされる。さらに、金銭的な補償を受けられなければ、パートンの事業提携に介入し、「ドリーのブランド提携を壊す」ことを目的とするポッドキャストを制作すると述べたとも主張されている。
訴訟資料には、シーバーが送ったとされる「一族全体の復讐の手になる」といった内容のテキストメッセージも記載された。現在、ノゼルはパートンの死後のブランドと遺産に関する業務をShe's Alive LLCの代表として扱っている。ただし、同社はパートンの遺産を管理するDP Dean Trustとは別の組織だ。
シーバーは、制限命令には根拠がなく、宣伝目的の措置にすぎないと主張している。遺産側は当初、シーバー本人とその会社に長期的な警備業務を委託する方向で協議していたものの、約1週間後、脅迫を理由に契約を打ち切ったという。シーバーは、パートンが以前から自分を「殺し屋」と冗談で呼び、ノゼルも同じ呼称を使っていたと説明。問題のメッセージは、長年解決されていない問題について友人同士で話したもので、ノゼルやパートンのブランドを脅かす意図はなかったとしている。
20年以上にわたり警備を担当
シーバーは、パートンの妹キャシー(Cassie)の息子である。キャシーは、パートンの存命中の6人のきょうだいの一人だ。パートンの死去は、シーバーがInstagramに投稿した動画で公表された。動画でシーバーは、パートンから何年も前に、その時が来たら自分が発表するよう頼まれていたと説明した。また、父親のラリー(Larry)も以前、この一族の警備を担っていたという。
パートンの死後、シーバーは約1カ月で、遺産関連施設などの警備責任者から外され、同氏の警備会社も別の担当者に交代した。人事変更を巡っては、契約協議の内容、解雇の理由、メッセージの文脈について双方の説明が食い違っており、最終的な事実関係は訴訟手続きで判断されることになる。
テーマパークとホテルの資産価値
2025年6月時点の公開推計では、パートンの資産は約4億5000万ドルとされる。パートンはテネシー州セビアビルの質素な家庭に生まれ、電気も水道もない2部屋の木造住宅で11人のきょうだいと育った。数十年にわたる音楽活動で作品の権利を保有し、商業ライセンスを拡大したことで、エンターテインメント、観光、消費者向け商品の分野にまたがる資産群を築いた。
代表的な資産がテネシー州ピジョン・フォージのテーマパーク、ドリーウッド(Dollywood)だ。1986年に開業し、パートンの持ち分は50%と推計されている。2021年時点の評価額は約1億6500万ドルだった。隣接するウォーターパーク、ドリーウッド・スプラッシュ・カントリー(Dollywood's Splash Country)は2001年に開業し、パートンの持ち分は約2000万ドルと評価されている。
パートンは、ピジョン・フォージにあるドリームモア・リゾート・アンド・スパ(DreamMore Resort and Spa)とハートソング・ロッジ・アンド・リゾート(HeartSong Lodge and Resort)の共同所有者でもある。ドリームモアに関する持ち分は約1500万ドルとされる。テーマパークやホテルは入場料・宿泊料を生むだけでなく、パートンの氏名、音楽、肖像を継続的に使用しているため、遺産の管理体制はブランド運営やライセンス判断にも影響する。
音楽著作権とライセンス契約
パートンはキャリアを通じて49枚のスタジオアルバムを録音したほか、複数のベスト盤やライブアルバムも発表し、数千曲を作曲した。その大半の出版権を保有しており、楽曲カタログの価値は約1億2000万ドルと見積もられている。
代表例が「I Will Always Love You」だ。エルビス・プレスリーは同曲の録音を望んだが、マネジャーのカーネル・トム・パーカーは、プレスリーがカバー曲の収益の半分を通常受け取る契約を提示した。パートンはこの条件を拒否し、その後、ホイットニー・ヒューストンによるカバーを認めながらも、曲の所有権は維持した。同曲から得られた著作権収入は、パートンの商業的成功を支える重要な収益源となった。
パートンの氏名と肖像は、ダンカン・ハインズのベーキングミックス、飲食店、調理器具、宝飾品、レシピ、ホームデコレーション、ペット用品などにもライセンスされている。これらの事業では、ライセンス期間やブランドの使用方法、契約の承認権限が収入と商業上の信用に直結する。She's Alive LLCは、パートンの死後もブランドとレガシーを維持する目的の一つとして設立されたが、DP Dean Trustとの権限の境界も今回の争いを理解するうえで重要な論点となっている。
慈善事業にも氏名の使用権が関わる
パートンは1988年にドリーウッド基金(Dollywood Foundation)を設立した。同基金のイマジネーション・ライブラリー(Imagination Library)は、出生から5歳までの子どもに毎月約300万冊の本を配布している。
このほか、モデルナの新型コロナウイルスワクチン研究を支援したドリー・パートンCOVID-19研究基金(Dolly Parton COVID-19 Research Fund)を設立。テネシー州セビアビルのルコント・メディカル・センター(LeConte Medical Center)にあるドリー・パートン女性サービスセンター(Dolly Parton Center for Women's Services)とドリー・パートン産科病棟(Dolly Parton Birthing Unit)にも資金を提供した。
これらは商業資産とは性格が異なるものの、いずれもパートンの名前を使用し、長期的な運営、資金配分、社会からの信頼を必要とする。遺産管理者はテーマパークや著作権、ライセンス契約だけでなく、慈善事業を継続するための運営体制も維持しなければならない。
10月7日に審理予定
ノゼルは一時的な接触制限命令の申し立てと同時に、陪審による審理も求めた。裁判所は10月7日に審理を予定している。双方は、シーバーと遺産側の契約協議、警備職の終了、テキストメッセージの内容、支払い要求の経緯について、さらに説明する可能性がある。
今回の制限命令により、係争中の双方の接触方法はすでに変更されている。ただし、これは最終的な主張の妥当性について裁判所が判断したことを意味しない。今後の手続きでは、シーバーが遺産や事業運営に対して法的に制限すべきリスクを及ぼすかどうかに加え、She's Alive LLC、DP Dean Trust、その他のパートン関連事業体が死去後にどの業務を担うのかが整理されることになる。