事件の背景
ビットコインなどの暗号通貨は10年以上前から出現していましたが、大規模に発展することはありませんでした。しかし、暗号通貨への認識が徐々に広まるにつれ、その価値も広く認められるようになりました。交換手段としてだけでなく、「投機」の対象としても使用できることから、様々な暗号通貨取引所が次々と登場しました。
数年にわたる発展を経て、最終的に赵長鵬（Zhao Changpeng）が創設したバイナンス（Binance）が頭角を現し、世界最大の暗号通貨取引所となりました。さらに、世界の暗号通貨市場の三分の二を占めるまでになり、赵長鵬は世界の暗号通貨業界のリーダーであり象徴的な人物となり、CZとして知られる彼は長い間中国の富豪リストのトップに名を連ね、世界のトップ10の富豪リストに入ることもありました。
事件の経過
アメリカ商品先物取引委員会（CFTC）がバイナンスを訴える
現地時間3月27日11時24分に、アメリカ商品先物取引委員会（CFTC）は公式ウェブサイトで発表し、イリノイ州北部地区連邦裁判所に民事執行訴訟を提起しました。これは、バイナンスのプラットフォームの創設者である赵長鵬と、バイナンスプラットフォームを運営する3つの実体が「商品取引法」（CEA）とCFTCの規制を複数回にわたって破ったという指摘です。また、CFTCはバイナンスの元最高コンプライアンスオフィサー（CCO）であるサミュエル・リム（Samuel Lim）がバイナンスの違反行為を助け、唆したと指摘しています。
3月28日、バイナンスは公式ブログでCFTCの訴訟に対する赵長鵬の回答を公開しました。彼は回答の中で、バイナンスは2年以上CFTCと協力してきたにも関わらず、CFTCから意外で失望させられるような民事訴訟が提起されたと述べました。「初期審査では、訴状の事実記述が不完全であるように見え、訴状に記載された多くの点に同意しない」と述べています。
赵長鵬は、バイナンスは様々な最新技術と手段を使用してコンプライアンスを確保しており、いかなる状況下でも利益取引または「市場操作」は行わないと述べました。バイナンスは、世界初の強制的なKYC（顧客確認）プログラムを実施したグローバル（米国外）の取引所であり、依然としてKYCとAML（マネーロンダリング防止）の最高基準の一つを保持しています。
この訴訟に対し、バイナンス側は強く反対の立場を示していますが、CFTC側は訴訟を続けることはありませんでした。どうやらバイナンスは自身の合法性を証明したようですが、これはバイナンスの最初の試練のラウンドに過ぎなかった。
米国証券取引委員会（SEC）がバイナンスを訴える
2023年6月5日に、米国証券取引委員会（SEC）は首都ワシントンの連邦裁判所に訴訟を提起し、バイナンス、赵長鵬、および名目上独立して運営されるとされる同社の米国取引オペレーターに対する13の指控をリストアップしました。SECは、バイナンスが意図的に取引量を誇張し、顧客資金を移転し、米国の顧客がそのプラットフォームにアクセスすることを制限せず、また市場監視の面で投資家を誤解させたと指摘しています。
SECはまた、バイナンスとその創業者であり、暗号通貨業界で最も知られている大物の一人である赵長鵬が、顧客の資産を秘密裏に管理し、「思いのままに」投資家の資金を混合し、移転したと指摘しています。
SECはまた、赵長鵬が所有し、管理している取引会社Sigma Chainが、いわゆるウォッシュ取引に従事し、Binance.USプラットフォーム上の暗号資産証券の取引量を人為的に誇張したと指摘しています。
しかし、この指控は結局小さな波紋に過ぎず、バイナンスと赵長鵬を完全に転落させることは出来ませんでした。半年にわたり2つの規制機関から訴えられたことでバイナンスは信頼危機に陥りましたが、多くのユーザーは依然としてバイナンスを信頼しており、世界最大の暗号通貨取引所が不正行為に手を染めることはあり得ないと考えています。
米国司法省が声明を発表
現地時間11月21日に、米国司法省は公式ウェブサイト上で声明を発表しました。それによると、世界最大の暗号通貨取引所Binance.comを運営するバイナンスホールディングス・リミテッド（Binance Holdings Limited、略称Binance）は、洗錢、無許可送金、および制裁違反に関与したことを認め、43億ドルの罰金の支払いに同意しました。
認罪契約の一環として、バイナンスは25億ドルを没収し、18億ドルの刑事罰金を支払い、合計で43億ドルの罰金を支払うことに同意しました。また、バイナンスは3年間独立したコンプライアンス監視者を保持し、その反マネーロンダリングおよび制裁コンプライアンスプログラムを修正および強化することにも同意しました。
米国司法省は、バイナンスが有効な反マネーロンダリング計画を実施していなかったことを指摘しました。長年にわたり、バイナンスは電子メールアドレス以外のいかなる身分証明書も提出しなくても、ユーザーがアカウントを開設し、取引を行えるようにしていました。
同時に、米国の制裁法は、米国人が米国によって制裁されている顧客と取引を行うことを禁止しており、イランなどの完全に制裁されている管轄区の顧客を含みますが、バイナンスはこの規定を完全に実施し、遵守しておらず、米国ユーザーとイランのユーザー間の取引を阻止する制御手段を実施していませんでした。2018年1月から2022年5月にかけて、バイナンスは意図的な怠慢により、米国ユーザーと通常イランに居住しているユーザー間の取引が8億9800万ドル以上に上る事態を招いてしまいました。
赵長鵬が罪を認め、罰金を支払う
現地時間11月21日午後4時36分に、バイナンスの創設者赵長鵬はツイートを投稿し、その日にバイナンスのCEOを辞任したことを発表しました。「私はミスを犯し、その責任を負うべきです」と述べました。また、辞任後はしばらく休息を取り、その後は受動的な投資を行うかもしれないとして、ブロックチェーン、Web3、DeFi（分散型金融）、人工知能、生物技術分野のスタートアップ企業の少数株主になる可能性に言及しました。
赵長鵬はまた、バイナンスの元地域市場グローバル責任者リチャード・テン（Richard Teng）がバイナンスの新CEOに就任することを発表しました。
連邦当局によると、バイナンス自体も有罪を認め、政府に43億ドルの罰金と賠償金を支払うことに同意しました。協定によると、バイナンスは司法省、財務省、商品先物取引委員会と和解に達し、これらの機関は数年にわたって同社を調査してきました。
認罪契約の一部として、赵長鵬は5000万ドルの罰金を支払い、CEOの職を辞することに同意しました。連邦量刑指針によると、赵長鵬は最高で18ヶ月の投獄に直面しますが、司法省の高官によると、検察官はより厳しい罰則を要求する可能性を保持しています。
連邦検察官との認罪契約の一部として、バイナンスは政府指定の監督者が自社のビジネスを監督することに同意しました。裁判所文書によると、赵長鵬は指定された監督者が就任した後の3年間、バイナンスのいかなる活動にも参加してはならないとされています。
事件の影響
バイナンスの前にも、いくつかの暗号通貨取引所が様々な違法行為で罰せられていました。それらの取引所は罰せられる前、ユーザーの資金が独立して保存され、取引所自体もその資金を操作することはないと主張し、ユーザーに対して、どこに本社があるかも分からない会社に現金を預けることが安全であると信じ込ませようとしましたが、それぞれのケースでリスクが存在することが証明されました。
バイナンスが問題になる少し前に、バイナンス最大の競合であるFTXが関係する部署による制裁に遭いました。FTXの創設者サム・バンクマン＝フリードは有罪判決を受け、数十億ドルの顧客資金を不正使用し、選挙資金や個人的な贅沢な消費に使っていたことが発覚しました。
まるでブーメランのように、FTXが倒れた時、赵長鵬はまだ自らを暗号通貨業界の「模範」として位置づけ、合法的であると主張していましたが、ほどなくして自身が法の網にかかりました。しかし、これは突然起こったわけではありません。違法な行為に手を出したその日から、結末は既に決まっていたのです。
バイナンスにとって、この事件の影響は非常に大きいものでした。今年一連の法的措置がバイナンスのビジネスを大きく損ねました。米国証券取引委員会が訴訟を提起した後、銀行はBinance.USへのアクセスを遮断しました。これにより、同社は大部分の取引活動を凍結することを余儀なくされました。また、数名の重役がすぐに退職しました。
一方、赵長鵬個人にとっても状況は楽観視できるものではありません。彼の運命はまだはっきりとしていません。彼の量刑までにはまだ数ヶ月あります。その間、彼の保釈金は1億7500万ドルに設定されており、そのうち1500万ドルは現金です。連邦裁判官は彼がアラブ首長国連邦に戻ることを許可しており、彼は今年ずっとそこに住んでいました。
