Cosmos Hubのバリデーターは、9月22日に発生したNeutronのガバナンス攻撃を受けてソフトウェアを緊急更新し、攻撃者がHubへ移した122万7,121.37ATOMをマルチシグウォレットへ移管した。ただし、資金はまだ返還されていない。マルチシグの署名者6人は、Cosmos Hubのガバナンス提案が承認され、資金移転が正式に認められるまで、ウォレットから資金を動かさない方針を示している。
この対応により、攻撃者が当時Cosmos Hub上に保有していた資産の一部は、さらなる移動を免れた。一方で、被害を受けたユーザーやプロトコルが補償を受けられるか、また補償対象と配分方法をどう定めるかは、今後の手続きに委ねられている。
緊急アップデートで攻撃関連のATOMを移管
Neutronの保守チームによると、攻撃者は9月22日、ガバナンス提案を悪用して管理権限を取得し、Astroportなど複数のプロトコルが利用するコントラクトを掌握した。その後、攻撃者は資産の一部を別のネットワークへ移し、約173万ATOMがCosmos Hubへ流入した。Hub自体が攻撃されたわけではないが、資産の一部を阻止できる場所となった。
攻撃者がATOMを交換し、クロスチェーンで移動させる中、Hubのバリデーターはブロック高33,086,740でチェーンを停止した。そのうえで、Gaia v28.3.0に切り替えて再起動することに合意した。再開後の最初のブロックでは、攻撃者と関連するアドレスから1,227,121.37ATOMをリカバリー用マルチシグウォレットへ移す一度限りの状態変更が実行され、その後に通常の取引処理が再開された。
Cosmos Hubの運営側が9月24日に公表した更新情報では、このパッチの対象は単一の送金元アカウントに限られ、他のユーザーの残高や委任分には変更を加えていないと説明されている。
今回の対応は、バリデーターがソフトウェアを協調して更新したものであり、オンチェーンのガバナンス投票によって補償が承認されたわけではない。Cosmos Labsによると、ソフトウェアの作成・配布に先立ち、バリデーターには送金元と受取先のアドレス、6人の署名者、パッチの適用範囲を記した文書が共有された。9月23日の再起動前には、Hubの投票権の67%超を代表するバリデーターがインストールを確認していた。ブロックチェーンは12:00 UTCに再開し、資産移転は12:06 UTCごろに有効になった。
運営側によると、パッチはメインネットの状態を再現したフォーク上でテストされ、チェックサム形式で配布された。また、基盤となるGaia v28.2.0のセキュリティ修正が調整済みの開示禁止期間にあったため、当時はソースコードの差分を公開していなかった。Cosmos Labsは9月25日、開示禁止期間の終了後に差分を公表する予定だと説明した。ただし、これは当時示された開示計画であり、その後に公開されたことを意味するものではない。
返還には6人の署名者とHubの承認が必要
リカバリー用マルチシグウォレットに登録されている6人のバリデーターは、Nansen、Keplr、Enigma、Silknodes、Kiln、Polkachuだ。技術的には6人のうち4人以上の署名があれば取引を実行できるが、署名者は、Cosmos Hubのガバナンス提案が承認され、資金移転が認可されるまで権限を行使しないとしている。Cosmos Labsは、このウォレットの秘密鍵を保有していないと説明している。
つまり、資産を止めることと、補償対象者を決めることは別の手続きとなる。バリデーターはチェーン停止中にHubの状態を変更し、当時すでにHub上にあった残高が攻撃者によって移動されるのを阻止した。一方、マルチシグの署名者は現在、公開ガバナンス手続きを通じて資金の用途と配分先を決めるよう求めている。緊急パッチによって、すべての正当な請求者や具体的な配分時期が確定したわけではない。
今後の案は、まずNeutron側が損失情報を整理したうえで策定するとみられる。Cosmos Labsによると、9月25日時点でNeutronは緩和措置を講じ、ネットワークを再稼働させていた。関係者やAstroport、Dropなどの被害を受けたプロトコルは、損失を裏付ける資料と資金配分案を準備していた。対応チームは当時、翌週中にCosmos Hubの提案を提出するか、その提案を支持する見通しを示していた。Neutronのガバナンスで別途投票を行うかどうかは、同ネットワークが判断することになる。
9月26日15:40 UTC時点で、Cosmos Hubのガバナンス提案一覧に掲載されていた攻撃後の提案のうち、リカバリー用マルチシグからの資金配分を承認したものはなかった。最新の提案1057はRealioのIBCライトクライアント復旧に関するもので、提案1056の「ATOM Refund & Justice Bounty」は当時投票中だった。後者の返金・懸賞の枠組みは、Neutronの対応チームがこのマルチシグウォレットから資産を配分する権限を与えるものではない。そのため、署名者が求めるガバナンス上の承認は、当時まだ実現していなかった。
16.9万ATOMはパッチ実行後に到着
マルチシグへ移された資金は、チェーン停止時点で攻撃者関連アドレスに残っていたATOMに限られる。Neutronへの攻撃全体を取り消したわけではない。Cosmos Labsによると、約50万ATOMは停止前にTHORChainを通じて交換され、その他の流出資産もCosmos Hub以外のネットワークへ移された。公表された情報では、各被害アカウントが最終的に請求できる金額は確定しておらず、全額補償も約束されていない。
パッチ適用の時間的な境界を示すのが、別途確認された168,990.9ATOMだ。THORChainで処理中だった返金分が、チェーン再開後、パッチによる一度限りの送金が実行された後に攻撃者のアドレスへ到着した。Cosmos Labsは、バリデーターがこの返金の到着可能性を把握していたものの、資金を対象に含めるにはテスト済みのパッチを修正する別のコードが必要となり、チェーン停止時間も延長されると説明した。
その後、このATOMはOsmosisへ移され、売却された。パッチは再起動時に一度だけ実行される仕組みだったため、後から到着した資産を自動的に回収することはできなかった。
今後は、Neutron側が損失、請求対象者、配分先を確認し、Hubのガバナンス提案によってマルチシグ署名者に公開された権限を与える必要がある。これらの手続きが完了するまで、マルチシグへ移された約122.7万ATOMは管理下に置かれ、最終的な受取人は決まっていない。