FCAが提示した加密資産規制の経済効果分析
英国の金融行動監視機構(FCA)は、2027年10月25日から施行予定の新たな加密資産規制に関するコスト・ベネフィット分析を公表した。今後10年間の純経済効果は約1億2,000万ポンドと見積もられている。規制対象企業数は最大で325社に達し、この新規制による総収益は約14億3,500万ポンド、一方で合規にかかる総コストは約13億1,500万ポンドと推定された。これらの差額が純利益となるが、純利益は規制コストの約9.1%に留まる。
この評価は2026年価格に基づく割引率3.5%のモデルに基づいており、実際の企業負担や市場の支払い額とイコールではない点に留意が必要だ。
消費者保護価値が最も大きな効果要因
FCAの分析で最大の便益をもたらすのは直接的な詐欺防止や損失の減少ではなく、消費者が強化された規制による保護を享受する価値とされ、その推計は約7億3,500万ポンドで全体効果の約51%を占める。逆にこの消費者保護価値を除くと、規制全体のベネフィットはコストを下回り約6億1,500万ポンドの純損失となる可能性もある。
実施責任者のデイビッド・ジール氏は、新規制が加密資産企業に伝統的金融機関と同等の監督基準を求めるものの、リスクの完全排除は困難であると強調。年間一人あたり13.6ポンドの消費者保護価値設定により、収支均衡を目指す規制設計となっている。
小規模企業が過半数、コスト負荷にばらつき
新規規制の適用対象となる325社のうち約74%は小規模企業で、中規模・大規模の企業は残りを占める。事業規模と性質の違いから合規コストも企業ごとに大きく異なり、単純に総コストを割り算した平均値では実態を反映しにくいとの分析だ。
FCAは新規制が業界の参入障壁を高める可能性も指摘。欧州で類似の規制導入後には80%もの加密資産サービスプロバイダーが市場撤退に追い込まれた事例もあり、英国市場での中小企業の割合が高い現状は今後の監督運用の課題となる。
高コスト分野はカストディと仲介サービス
業務別にみると、中間仲介サービスの現在価値規制コストが3億5,500万ポンドで最多、続いてカストディサービスの3億1,500万ポンドとなった。市場操作防止のための合規コストは1億9,000万ポンド前後。取引所、貸付業務、ステーキングそれぞれは約8,400万~8,500万ポンドを計上している。複数業務を兼営する企業もあり、コストは重複し合規負担全体に影響を与えている。
免許申請開始が間近、審査リスクも課題
FCAは2026年9月30日から新規制下の営業免許申請を受け付け開始し、締切は2027年2月28日に設定されている。既存のマネーロンダリング防止登録企業も改めて免許申請が必須となる。
2020年以降、FCAには412件の反マネーロンダリング登録申請があり、391件は審査済み。申請取り下げが263件、登録成功は68件、拒否は46件、入場拒否は14件だった。今回の新規制は対応範囲が拡大するため、過去の17.4%の成功率は参考値として直結しない。
英国金融サービス管理コンサルタント、マイケル・マコーミック氏は現在、免許取得競争が激化しているとの見解を示した。
規制適用による業界構造への影響に注目
今後数か月間、FCAは初申請企業と変更申請企業の比率、さらに規制導入後の苦情や損失の動向を注視する。また規制に参加する事業体の多くが小規模企業であり続けるのかという市場の変化にも関心が向けられている。
今回の分析資料と数字は、英国が加密資産市場で強化した規制を推進する中でのコスト・利益のバランスを示し、投資家や市場、規制当局に対し重要な示唆を提供している。