豪州政府は2027年7月1日から、投資資産のキャピタルゲイン税(CGT)に適用されてきた50%控除を廃止する計画だ。暗号資産を保有する投資家は、利益のより大きな部分に課税される可能性がある。保有者にとっては、資産価値の記録や自主管理型年金基金(SMSF)、資産を売却せずに資金を借りる方法の検討が、将来の税負担に関わる。ただし、資金の引き出し制限や運用費用、担保資産の清算リスクも考慮する必要がある。
投資サービスFinderの創業者で暗号資産投資家でもあるFred Schebesta氏は、税制変更を「大きな打撃」と述べ、シンガポールへの移住を決めた。ただし、居住地の変更だけが選択肢ではない。SMSFを設立する方法や、資産を売却せずに担保融資を利用する方法を検討する投資家もいる。適用される税務上の扱いと実際の費用は、個々の状況に応じて確認が必要だ。
50%控除は2027年7月に廃止、インフレ調整は継続
豪州では1999年以来、一定の保有資産について、キャピタルゲインの半分を課税所得に算入する仕組みが使われてきた。新制度では、利益に個人所得税率が適用される一方、取得費用のインフレ調整による控除は残る。
示されている税率は、所得およびキャピタルゲインのうち4万5,000~13万5,000豪ドルの部分が30%、13万5,000~19万豪ドルの部分が37%、19万豪ドルを超える部分が47%。給付を受けていない低所得者についても、学生や退職者を含め、キャピタルゲイン税率は最低30%となる。
インフレ調整は、保有期間が長く、価格上昇が比較的緩やかな資産ほど恩恵が大きい。例えば、2027年に100万豪ドルで購入した住宅を10年後に150万豪ドルで売却し、年3%のインフレを仮定すると、名目上の値上がり分のうち約34万4,000豪ドルはインフレによるものとして、課税対象の利益から除かれる。
暗号資産取引所SwyftxのAndrea Yuen最高経営責任者(CEO)は、暗号資産は価格上昇のペースが速いため、インフレ調整による節税効果は比較的小さいと指摘する。ビットコインを1万豪ドルで購入し、10年後に10万豪ドルで売却する例では、インフレ調整額は約3,439豪ドル。旧制度では課税対象の利益は4万5,000豪ドルだが、新制度では約8万6,600豪ドルになる。
StockspotのアナリストChris Brycki氏が新制度の下で10種類の資産クラスを比較したところ、暗号資産は最も低い位置にあった。同氏によると、暗号資産のリターンはほぼすべて値上がり益によるもので、税引き後のリターンへの影響が相対的に大きくなる。
施行日前の値上がり益には現行ルールを適用
2027年7月1日より前に実現した利益には、現行の50%控除が適用される。同日時点で資産を保有している投資家は、暗号資産ごとの価値を記録しておくことが重要になる。以降に生じた値上がり分には、新制度が適用されるためだ。
暗号資産教育会社Collective Shiftの創業者Ben Simpson氏は、マクロ環境が逆風となるなか、ビットコインが年央以降も底堅く推移したことは、制度変更前の相場を考える材料になり得ると述べた。一方、大幅な上昇をあてにすべきではないとも警告し、主なリターンの機会は2028年5月のビットコイン半減期になる可能性があるとの見方を示した。Yuen氏も、市場価格は投資家がコントロールできるものではなく、値上がりを待つだけでは確かな税務対策にならないと話している。
野党は撤回を表明、実現時期は見通せず
野党連合(The Coalition)とOne Nationは、税制改正を撤回すると表明している。ただ、与党のオーストラリア労働党(ALP)は下院150議席のうち94議席を占めており、政権交代は容易ではない。仮に政権が交代しても、関連法案が上院を通過するか、また2028年7月1日に始まる最初の申告期までに改正が撤回されるかは不透明だ。
Crypto Tax Australiaの取締役Adrian Forza氏は、移行期間中に新旧制度が繰り返し変更されれば、納税者は異なるルールに基づいて利益を計算する必要が生じ、申告が複雑になる可能性があると指摘した。一方、長期的には政策変更が一般の人々にとって有利になる場合もあるという。改正の撤回が実現するか、実現するとすればいつかは、暗号資産投資家の税務計画を左右する要因となっている。
SMSFで暗号資産を保有、資金の引き出しには制約
豪州のSMSFは、加入者自身が退職後に向けた資金を管理する年金基金だ。一般に60歳以降は非課税で資金を引き出せ、基金内の投資を継続して運用できる。小売型の年金基金では顧客が暗号資産に直接投資できないため、年金制度の枠内で暗号資産を保有したい場合、SMSFを自ら設立するのが一般的な方法となる。
Simpson氏によると、同氏の富裕層顧客の約3分の1が、SMSFを通じて暗号資産に投資している。同氏は、基金内で購入し、ビットコインを長期保有する方法は選択肢になり得るとする一方、価格変動の大きいアルトコインに退職資金の大部分を投じることは勧めていない。
大きな制約は、資金をすぐに引き出せないことだ。若い投資家は、保有資産を利用できるようになるまで数十年かかる可能性がある。そのため、退職が近く、設立費用を負担できる人に向いた選択肢となる。SMSFには監査やコンプライアンス関連の書類、継続的な運用費用も発生し、年間費用は通常約2,000~4,000豪ドル。Stakeなどのオンライン事業者では、投資対象をビットコインまたはイーサリアムのETFに限る場合、年間の総費用を約1,330豪ドルに抑えられる。
既に保有する暗号資産をいったん売却して税金を納めた後、SMSFが改めて買い付ける必要がある点や、年間の拠出上限も考慮しなければならない。Forza氏は、資金の組み立て方によっては、基金内の金額を40万豪ドル近くにすることも可能な場合があると述べた。
ビットコイン担保融資は金利と清算リスクを確認
BlockEarner、Veild、Swyftxなどは、ビットコインを担保にした融資を提供している。資産を売却せずに資金を借りられる一方、融資期間は短く、金利は高めで、借入額は担保資産の時価を下回る。Swyftxのローン・トゥ・バリュー(LTV)比率は約40%だ。
担保価格が一定水準まで下落すると、追加担保を求められたり、担保資産を処分されたりする可能性がある。Yuen氏は、この種の融資は実質的に、借り手がビットコイン価格の先行きをどう見るかに左右されると指摘する。
Simpson氏は、融資金利が10%で、ビットコインの年平均複利上昇率が33%に達する場合、資産を売却してキャピタルゲイン税を払うより、借り入れの方が計算上有利になる可能性があると説明した。ただし、これはレバレッジを伴う手法であり、経験があり、価格下落に備える十分な資金を持つ投資家向けだという。暗号資産への投資比率がすでに高く、追加資金も乏しい人には勧めていない。
記事公開時点で、ビットコインは過去1年間に28%下落していた。このような相場では、借り手は利息の支払いに加えて、追加担保の差し入れや清算に直面する可能性がある。リスクの程度は、融資条件や担保比率、市場の動きによって変わる。
借入時の課税扱い、商品ごとに確認が必要
借り入れが常にキャピタルゲイン税の課税対象にならないとは限らない。Forza氏は、分散型金融(DeFi)プラットフォームAaveにETHを預け入れると、自動的にWETHへ変換される例を挙げた。この変換が課税対象となる可能性があり、その後ETHを引き出す際にも税務上の扱いが生じる場合があるという。
BlockEarnerやSwyftxのような中央集権型の融資サービスについては、豪州税務局(ATO)は課税対象となるかを明確にしていない。Forza氏によると、関連サービスのうち、商品が課税対象のイベントに当たらないとの個別裁定を取得済みなのは、豪州ではVeildのみだ。Swyftxは個別裁定を取得していないとし、顧客に税務専門家への相談を勧めている。BlockEarnerはコメント要請に応じなかった。
担保融資を利用する前には、金利や担保条件に加え、商品ごとの税務上の扱いを確認する必要がある。税制変更は2027年7月1日の施行が予定されているが、融資が納税義務につながるかどうかは、商品の仕組みと税務当局の判断に左右される。