バイナンスで木曜日、過去最大規模となる暗号資産の盗難が発生しました。ブロックチェーン調査会社は被害額を60億ドル超と推計しています。一方、バイナンスは影響を受けた資産を約50億ドルと説明し、損失を補填するため、市場取引や相対取引を通じて13億ドルを追加調達する方針です。顧客資産の保全や出金対応が問われるとともに、大量の資産を預かる中央集権型取引所のホットウォレットと取引承認システムのリスクが改めて浮き彫りになりました。
攻撃準備は少なくとも36時間前からか
バイナンスの初期調査では、DevOpsエンジニアのノートPCへの侵入と、サービスコンテナへの不正アクセスが関与した可能性があるとしています。秘密鍵が流出した証拠は確認されていません。共同CEOのRichard Teng氏は、今回の攻撃は従業員1人の権限を盗むだけのものより複雑だったと述べました。
TRM Labsの分析によると、攻撃者は少なくとも36時間前から準備を進めていました。まずTornado Cashから少額を引き出して攻撃用ウォレットに資金を移し、3つのウォレットに関係する悪意あるコードを展開・テスト。その後、イーサリアム上でEIP-7702を利用し、バイナンスのホットウォレットを攻撃者が管理する資金集約ツールに変えました。実行時に有効な署名が少なくとも1つ残るよう、50件の署名承認も事前に用意していたといいます。
攻撃者はほかの9つのブロックチェーンでも資産移転を連携して行いました。TRMは、影響が単一のウォレットにとどまらず、バイナンスのホットウォレット署名基盤全体に及んだ可能性を指摘しています。Ellipticによると、攻撃者は最初の不正利用後もアクセス権を保持していた可能性があり、管理下に置いたウォレットの所有者権限を使って別のバイナンスのウォレットから資金を引き出し、新たに入金された資産も継続して移転したとみられます。別のイーサリアム・ホットウォレットからも、1億7,400万ドル相当の資産が攻撃者に直接送られており、取引署名システムへのアクセス範囲に疑問が広がっています。
焦点はコードより取引を承認する権限
Immunefiの副社長Simone Imbrescia氏は、攻撃の複雑さはオンチェーン上のコードそのものではなく、取引を承認できるインフラにどう侵入したかにある可能性が高いと指摘しました。問題となった資金集約コントラクトは約130行だったといいます。単純なコードで大きな損失を生じさせるほどのシステム権限を、攻撃者がどのように得たのかが重要な焦点です。
Chainalysis、Elliptic、TRMはいずれも、今回の攻撃を北朝鮮のハッカー集団によるものと分析しています。TRMは、2025年にBybitで約15億ドルの被害を出した攻撃に関与した組織との関連を指摘しました。Chainalysisは、バイナンスから盗まれた資金と、先月のBitgetの事件で得られた資金との間にオンチェーン上のつながりを確認しています。このBitgetの事件も北朝鮮のハッカーによるものとされています。ただしEllipticは、両事件で確認されたオンチェーン上の重複はバイナンスの盗難資金の一部に限られ、同一の攻撃者によるものと断定するには不十分だとしています。
調査では、攻撃者が短時間に数千件の取引を実行し、複数のアドレス間で資金を繰り返し移動させたことも分かりました。ステーブルコインの発行体による凍結を避けるため、約20分の間に3億2,500万ドル相当のステーブルコインを約2億8,500万ドル相当のETHに交換しました。
Aaveに資金を移し、一部は最大26%の割引で換金
Ellipticによると、攻撃者は盗んだUSDTのうち5,990万ドルを担保としてAaveに預け、19,762 ETHを借り入れました。同社の直近の更新時点で借入金は返済されておらず、清算に近い状態です。攻撃者は分散型取引所やマーケットメーカーを通じても数億ドル相当のUSDTをETHに交換しており、発行体が凍結できない資産に移す過程で、市場価格に対し最大約26%の割引を受けた取引もありました。
Aaveは金曜日、V3およびV4プロトコルの全市場で凍結措置を解除したと発表しました。スマートコントラクトに影響はなく、ユーザーのポジションは十分な担保で裏付けられているとしています。バイナンスの事件で問題となっている取引所側の署名システムと、Aaveのコントラクトが影響を受けたかどうかは別の論点です。Aaveの発表は、同プロトコルの稼働状況とユーザーのポジションについて説明したものです。
13億ドルを追加調達、準備金証明を公表へ
バイナンスは、今回の事件で約50億ドル相当の資産が影響を受けたと説明しています。損失を補うため、市場および相対取引を通じて13億ドルを調達しているとしています。Teng氏は、月曜日に準備金証明の初回報告を公表する計画を示し、出金の再開に向けて対応を進めていると述べました。金曜日に公開した動画では、日曜日の期限までにユーザーが出金できるようにしたいとし、関連対応の再開目標を約40時間以内と説明しました。
TD Cowenのアナリストは、現在の証拠が示しているのは中央集権型仲介業者のインフラへの侵入であり、ビットコインやその基盤ネットワークの障害ではないとの見方を示しました。直接の影響は、バイナンスの資産処理や出金再開、準備金の開示に集中しています。攻撃者が内部システムに侵入した経路、署名承認の仕組みがどこまで影響を受けたのか、盗難資金を最終的に回収できるのかは、今後の調査と開示を待つ必要があります。
Imbrescia氏は、暗号資産の安全対策では秘密鍵の保管やスマートコントラクトの監査だけでなく、鍵を操作できる人員やインフラ、業務手順も防御の対象に含める必要があると述べました。攻撃者がこうした運用レイヤーを掌握すれば、秘密鍵を直接盗んだり、複雑なコントラクトの脆弱性を突いたりせずに資金を動かせる可能性があります。ユーザーにとっては、バイナンスの出金再開の進捗、準備金証明の内容、損失補填の状況が、同社の対応を見極める具体的な材料となります。